嫌よ嫌よも好きの内
突然だが、私はスターバックスコーヒーが大好きである。貧乏学生で日々の食事を切り詰め、洋服の購入さえ控えているのに、ついスタバに入ってしまう癖があるのだ。
今日も大学で授業を受けた後、一息つこうとスタバを目指した。いつも行く駅近くのスタバに到着する。私は扉を開け、そして閉めた。
いつもと違う。
私は只ならぬ違和感を感じていた。何故ドアを閉めてしまったのかは自分でもよくわからないが、自己防衛能力のようなものが働いたのかもしれない。
もう一度ドアへ開けて、中に入る。
いつもと同じ主婦店員さん。いつもと同じメニュー。いつもと同じ店内装飾。いつもと…!!!私はここで違和感の正体を知った。
新しいバイト(と思われる)店員が増えていたのである。
イケメン店員。
実はイケメン店員が苦手、というブスは私以外にもいるのではないか。というかいてくれたら嬉しい。もちろん、イケメンを見るのは好きなのだ。
でも会話をするとなるとまた話は別。
「いらっしゃいませ!」と微笑まれただけで、何故だか悪いことをしたような気になって謝り倒してしまう。そして「ご注文お伺いします」と続けられれば私の中の時限爆弾が勢いよく破裂する。ゲームオーバーだ。
ただ店に入ってしまった以上、何もせずに出るのはかなり怪しい。ブスがドアを開けたり閉めたりしているだけで充分周りから視線を独り占めしていたのに、ここでまた変人となってしまっては困る。私は意を決してレジへと向かった。
顔を上げると目の前にイケメン店員がいた。新人ということもあり、向こうもかなり緊張しているのが見て取れた。(ちなみに彼の隣にはレジ操作を教えるためかベテランのパートさんが付いていたが、私には目の前のイケメン以外見えていない。)
「キャルメルフラッペチノクダ…サイ!」
ドキドキが高まっていた私は、勢いよく噛んだ。自分でも驚くぐらい、噛んだ。
彼は困惑しながらも、「オ…オーケー。ホワット、サイズ?」と聞いてくれた。
私のあまりの噛みっぷりから、日本人ではないと判断されたらしい。隣にいたパートさんは常連の私を知っているため、大爆笑。イケメンはなぜパートさんが笑っているのか分からず、さらに混乱。私はひたすら顔を赤くしていた。そしてイケメンの顔を立てなきゃ!という変な使命感に駆られ、自分は中国人として通すことにした。
とはいってもさすがに中国語は話せないため、英語で話すことにする。
結果、「スモール、ポルファボール…」と英語とスペイン語の混ざった返答をしていた。その後はただただ黙って、会計をした。
恥をかいてしまったが、イケメンの顔を汚すことなくその場を乗り切った。
と思い、私は一種の満足感を覚える。
私は赤いランプの下でドリンクが出来るのを待つ。するとレジの方でパートさんとイケメンが笑いあっているのが見えた。笑い合っている、というよりは腹を抱えて笑っていると言った方が良いだろう。すぐに私の本性(といってもただ日本人である、ということ)がバラされているのを悟った。ドリンクを受け取り、逃げるように店を出る。グッバイ、スターバックス。
そういえば駅の反対側にはタリーズがあった、とふと思いだす。私は新たな居場所を見つけた。