みにくいアヒルの子?
私は以前、洋食レストランでアルバイトをしたことがある。
理由は、①賄いが美味しそうだから
②時給がまあまあ良かったから
そして、③モテそうだから
である。
いつそれを聞いたのかも、その情報元も全く覚えていない。けれど、「飲食店で働けば、どんなブスでもお客さんから連絡先がもらえるらしいよ!」という風の噂に、私は色めきだった。(今思えば、根も葉もない、ただの方便である)
私はすぐに、大学から近いレストランでアルバイトの面接をしてもらった。結果は合格。後に本当はバイトに落とされる予定だったが極度の人不足を理由に採用されたことを知るまで、私はレストランの客から連絡先を渡される自分の姿を想像しては、気味の悪い笑顔を浮かべ続けた。
アルバイト初日。同期は夢に描いていたようなイケメン。
パーフェクト。
他のバイト仲間は美人とイケメン揃い。
パーフェクト。
みんなキラキラしていた。というか、キラキラしすぎていた。
私はまたもや不敵な笑みを抑えきれずに、アルバイトに臨んだ。
結果、初日にスープを客にぶちまけた。
ぶちまけている間は不思議にスローモーションのように見えて、「ああ、スープがこぼれていく」とか「このスープ、人参も入っていたんだ」とか、「この食器、どっか違う店でも使っていた気がするけど、どこだったかな」とか色々考えた。
ついでに、その日の夜に放送されるドラマの録画を忘れたことを思い出して悔やみもした。キムタク、見損ねた。
店長は大慌てで「申し訳ございません!!!!!新人なもんで!!!」とお客さんに謝罪、服があまり汚れていないのを確認し、箒で床を掃き始めた。
「いや、なんで箒やねん!そこは雑巾やろ!」とツッコもうかと思ったが、どう考えも120%私が悪い状況だったのでやめた。あと私は関西人でもないから、やめた。
でも私の意志が伝わったかのように、お客さんが、「スープなんだから雑巾使って片しなよ!」と言ってくれて、私の心のモヤモヤは晴れた。グッジョブ、お客さん。ありがとう、お客さん。
なんて意味の分からない感謝をしていたら、そのお客さんに十分以上にわたり説教を受けることになる。我ながら、当然の報いである。ただ、「お前はこの店に合っていない。周りを見てみろこのバカ」と怒られたのは心に刺さった。「申し訳ありませんでした」ともう一度謝ろうと思ったが、噛みまくって上手く言えなかったから、「なんか、もうオッケー!」って思った。自分でもなにがオッケーだったのか未だに分からない。
ゲットした連絡先、ゼロ。
ゲットした罵倒、たくさん。
人生甘くないぜ。