anne135のブログ

もうアラサーです。モテないアラサーの独り言。多分フィクションです。多分…。

悪夢のプレゼンテーション

「プレゼンテーション」というものを初めて知ったのは、中学に入学してすぐの頃だった。

 
国語の授業で、私たちは「好きな本を紹介する」という、実にシンプルな課題を与えられたのだ。
まず、宿題として、配られた大き目の画用紙に絵や文を書いてくる。それを基にして翌日に発表という流れでたる。私はかなり興奮していた。
新しく始まったばかりの中学校生活で人気者になるチャンスだ、と確信する。バラ色の学生生活の始まりを予感した。
プレゼンを作るのを友人たちが親や兄弟に手伝ってもらっていることは、もちろん知っている。しかし私はいやに正義感の強い子ども(子ブス)だったため、親には手伝ってもらうことなく、プレゼンテーションの準備はすべて自力でした。人気者になるには、そのくらいの努力は当然なのである。
 
さて、すぐに発表当日がやって来た。
私はドキドキしながらクラスメイトのプレゼンを聞く。「トムソーヤの冒険」や「窓際のトットちゃん」、「星の王子さま」などなど、いわゆる名作が次々に紹介されていった。先生もにこにこと微笑んで見ている。中には「坊ちゃん」や「吾輩は猫である」についてプレゼンをする人までいた。プレゼンを聞いている間に、それぞれのプレゼンへのコメントを書くことになっていたため、「悪くないよ」とか「絵がなかなか上手い」とか、内容のなさすぎるコメントでシートを埋めた。
私は自分の発表に自信があった。自信しかなかった。
 
ついに順番が回ってくる。私は自信に満ちた表情で、自分の自作小説についてプレゼンを行った。作品タイトルは、「アンパンマン」ならぬ「乾パンマン」である。本当はパンツを半分だけ履いている「半パンマン」を先に思いついていたのだが、怒られそうなのでやめた。その辺の区別はつく子だった。

 

乾パンの顔をしたヒーローが敵と戦うストーリー。ちなみに敵の名前は、細菌マンであった。乾パンマンは湿気に弱いので、ハムおじさんに新しい顔を作ってもらっている。
 
猛烈なる既視感。もはや既視感しかない。
 
自作小説を紹介し始めたときから、先生の顔色が悪くなっていくのが見て取れた。
しかしポジティブスである私は、先生が私のプレゼンのクオリティの高さに恐れ慄いているのだと解釈する。クラスメイトたちは、こそこそと何かを話し合ったり、小さく声をあげたりしていた。「ザワザワ」という表現がぴったりである。
私は熱弁をふるった。乾パンマンはなぜ悪と戦っているのか?ハムおじさんは生ハムなのか、それともボンレスハムなのか?などなど、ひたすら力説する。しかしザワザワは一向に収まらず、異様な空気の中、私はプレゼンを終えた。
 
先生からは何も言ってもらえない。まあそれはいいのだ。問題だったのは、クラスメイトからのコメントである。
「Anneさんの顔が面白かった」や「Anneの表情、すごいやかましい」みたいなコメントばっかりなのだ。
 
顔が強すぎて、内容全然みんなの頭に入ってなかった。
私の顔のインパクトの強さに、パクリのアニメストーリーなど埋もれていたのである。顔がやかましいって初めて言われたわ。
 
結局私は人気者になれたのか?
否。なれたわけがない。
ただ、変人として名を馳せたことは事実である。それはそれで良いかもしれない、と私は乾パンを食べながら思った。