ブスの甘酸っぱい思い出
私はよく自分のブスさをこのブログで取り上げている。でも、現実世界では決してブスを自称していない。それは何故か?
わざわざ自分からブスと言わなくても見れば分かるから
である。
普段初めて会った人に対して、「初めまして。私は人間です。」なんて言わないだろう。それと同じ理屈である。
しかしそんな私も、中学生の頃は頻繁に「私ブスだからさ」と口にしていた。他人から「ブス」と言われる前にこう言っておくことで、一種のバリアのようになるためである。やられる前にやってしまえ、という先制攻撃のようなものだ。ただしこの攻撃の場合、負傷しているのは相手ではなく自分自身であるが。
「私ブスだからさ」という私の攻撃(?)に、良くある反応としては「そんなことないよ~」とか「いやいや~」といったものが挙げられる。ここで私はハッとするのだ。
ブスというだけで周りにある程度被害を与えてきた。にも拘わらず、「私ブスだからさ」発言で相手にブス発言否定の義務まで負わせていたのである。これは相手にとって、まさに踏んだり蹴ったりだ、と思い私は心の中でスライディング土下座をした。
しかし「私ブスだからさ」に対し、一人だけ異なる反応を示した強者がいた。ここでは名前を斉藤くんとしよう。(ペッペッペー!で有名なトレンディエンジェルの斉藤さんそっくりだったのだ)
斉藤君は私の発言に対し、
何も言わなかった。
ホントのホントに、ひっっっとことも発しなかった。
これにはさすがの私も少し動揺してしまう。当時の私はブスであることを否定してくれる発言を無意識下で求めていたに違いない。何も言わずに堂々と目の前に立っている斉藤くんへの対応に困った。
困った私は脳内で色々な考えを巡らせる。「もしかして斉藤くんを怒らせてしまったのか?」、「ブス発言が聞こえていなかったのか?」それとも「ブスを自称するタイプの人間に初めて遭遇して斉藤くん自身も困っているのか?」などなど、小さな脳みそをフル回転させたが何も答えは出ない。しまいには混乱しすぎて、「斉藤くんは実は人型ロボット説」まで私の中で浮上した。
長い沈黙の時間が過ぎ、斉藤くんは「あ、トイレ行かなきゃ」と言ってその場を去った。なぜ急にトイレに行くことを思い出したのか(しかも彼はトイレに行くのを義務のように感じているらしい)、全く分からない。斉藤くんがいなくなり、「私ブスだからさ」発言は何の対処もされることなく、私の頭の中を漂った。
その翌日のことである。私はいつものように朝早く登校し、下駄箱を開けた。
上履きの中に何かが入っているのが見えた。
使いかけのMONO消しゴムだった。
斉藤くんからだ、とすぐに私は分かった。
だって消しゴムの裏にしっかり「サイトウ」というマッキーで書いた文字があったからのだから。
何故だかわからないが、スッキリとして気分になる。もやもやが晴れた気がした。
ありがとう、斉藤くん。
ブスは消しゴムじゃ消せないけど。
何はともあれ、斉藤くんの優しさがブスを包んだ。感謝である。